パラレル話につき、苦手な人は
ここで戻るが吉。

 

 

 

「それでもオッケ★」
という方だけ
スクロール プリーズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 大きな蜂蜜色をした瞳が、きょとり、と。
 不思議そうにこちらを見つめていた。



 既に高く上った陽の光が、ふわりと風に揺れる薄いカーテンの隙間から
 柔らかく差し込んでくる。
 然程大きくないダイニングテーブルに載っているのは、目の前に座っている
 子供からリクエストされたスパゲッティ・ナポリタンと、温野菜のサラダ、
 そしてオレンジジュース。

 出来立ての料理を頬張り、口だけを動かしながら。
 大きな瞳は瞬きもせずに、じっとこちらを見ている。

 「…いや、唐突にすまない。気になったもので思わず聞いてしまったのだが」

 子供は相変わらず瞬きひとつせず、こちらを見つめている。
 その真っ直ぐな視線が刺さるようで、非常に居心地が悪い。

 ただ、私は。
 予てより疑問に思っていた事を、口にしただけなのだ。
 それはこの子供にしてみれば、唐突な事だったかもしれないが。
 しかし、聞かずに入られなかった。

 「何故キミは、あの男と――…不壊と、そういう関係になったんだ?」

 私はもう一度、目の前の子供にその疑問を投げかけた。

 

 

 

 

 

  同居人の恋愛事情 2
 

 

 

 

 不壊という男と私は、世間で云うところの「幼馴染」という間柄だ。
 彼は幼少の頃より人間関係は狭く浅く、感情表現が希薄で、
 非常に取っ付き難い男だった。自分もそう人付き合いが得手な方では
 なかったが、不壊は私のそれを更に上回った。
 おまけに異性に好かれやすく同性に嫌われやすい性質で、
 何かと敵が多く友達が少ないタイプ。
 私と不壊は友達ではなかったが、お互いの性格は良く理解しており、
 共に行動する事が多かった。
 所謂腐れ縁というヤツで、同じ大学に進学が決まった時に、上京先での
 同居も決まってしまった。
 当時は経済面が苦しいからという理由で、2人で安いアパートを借りて
 暮らしていたのだが、大学を卒業し就職をして、お互いそれなりの収入を
 得て安アパートを出た今でも、何故か同居を続けている。
 しかし不壊は知り合った女の家を泊まり歩き、あまりこの部屋に帰る事が
 なかったので、正しく同居、と云っていいのかどうかは分からない。

 だがある時を境に、不壊は女のところを渡り歩く生活をやめた。
 その理由が、目の前にいるこの子供――多聞三志郎という、少年なのだ。

 不壊はこの少年と体の関係を持った。
 それを知った時は愕然としたが、どうやら彼はこの少年を溺愛しているらしい。
 未成年…しかも小学生を相手に何を寝惚けた事を、と思ったが、
 怖い事に目が本気だった。
 そして更に恐ろしい事に、少年も同意の上での情事だというのだ。

 …非常に頭が痛い。

 そんな衝撃的事実の発覚から、既に数ヶ月が経過している。
 不壊は月に何度か、この少年を家に連れてくる。
 この家以外の場所でも逢瀬を重ねているらしいが、あの男がそこまで
 する事など、今まではなかった。
 過去に数えきれないほどの女と付き合っていたが、もって3週間、
 早くて半日という有り得ない飽き易さだったのだ。
 その男が、この少年と出逢った事で変わりつつある。
 それは喜ばしい事ではあるのだが、如何せん相手は小学生、そして男だ。
 人の恋路をとやかく云うつもりはないのだが、倫理的に問題が多すぎる。
 せめて相手がもう少し大人になるまで、性行為だけは我慢できないものかと
 不壊に云ってはみたものの、あの男は全く聞き入れなかった。

 それでも、そう云った関係になるまでは、あの男なりに相当悩んだらしい。
 これまでに色事で悩んだ事のないこの男が、それはもう真剣に、
 悩んで悩んで悩み抜いて。
 そうして一線を越えてしまった後では、もう何もかもが吹っ切れてしまったようで、
 少年に対する愛情表現に躊躇がない。
 今ではもう、私も口を挟む事をやめてしまった。

 しかし不壊がこの少年をここに連れてくる時は、大抵情交に及ぶ為であって、
 私としては非常に居た堪れない気分になる。
 そしてその翌日には、私がこの少年の食事を作るのが決まり事のようになって
 しまっているのだ。

 初めてこの少年と顔を合わせた時は、少年も私も、非常に気まずい思いを
 したものだ。
 彼は気恥ずかし気に不壊の痩躯の後ろへとその体を隠し、小さな声で私に
 自身の名を告げた。
 だがそれも最初だけで、不壊に頼まれて作った食事を勧めてやると、
 途端に大きな目をきらきらと輝かせ、嬉しそうに示された席へと腰をかけた。
 親の躾がきちんとしているのだろう、しっかりと両手を合わせて
 「いただきます!」と元気な声を上げると、作った私に向かってぺこりと
 小さくお辞儀をした。
 それから勢い良く子供の手で使うには大きなスプーンを掴み、目の前に
 置かれたオムライスを頬張った。
 少年の食べっぷりは見事なもので、「おいしい」と満面の笑みを零しながら
 云われれば、私も作った甲斐があったというものだ。
 その隣で愛おしそうに少年を見つめ、微笑を浮かべている不壊が、私としては
 なるべく視界に入れたくない存在ではあったが。


 そうして今日も、目の前に座る少年に食事を作った訳であるが。
 無邪気に食事をする子供を見てるうちに、ふと以前から思っていた事が
 口をついて出てしまった。

 「何故不壊とそういう関係になったのか」と、云う事が。



 少年はじっとこちらを見つめた後、ぱちぱちと数回瞬きを繰り返してから、
 口の中で咀嚼していた物をごくりと飲み込んだ。
 それから軽く首を傾げて、その小さな口を開く。

 「フエのことが、好きだからだよ」

 非常にあっさりと、そう告げた。
 少年は手にしていたフォーク(この少年の為に子供用のものを買い揃えた
 私も大概なお人好しだ)をテーブルに置いて、更に口を開く。

 「ギグも、やっぱり…オレとフエは別れた方がいいと思ってる?」

 「…も、?他の誰かにそう云われたのか?」

 「うん、前にロンドンに…あー、オレの友達に相談した事があるんだけど…
 すっげー反対された」

 …それはそうだろう。普通の神経の持ち主ならそう云う筈だ。
 しかし私は。

 「いや、反対はしない。…まぁ正確に云えば、したところで無駄なのは
 分かっているからな。経験上、ああいう時の不壊に何を云っても
 聞かない事は知っているし…それに」

 一度口を噤み、あと少しで空になりそうなガラスのコップに
 オレンジジュースを注ぎ足してやる。
 少年はそれに、律儀にありがとうと呟いて、そのまま私の言葉を
 待っていた。

 「不壊は、キミと付き合うようになってから変わった。一応幼馴染である
 同居人としては、その変化は喜ばしい事だと思っているよ」

 そう云うと、少年はほっとしたようだった。
 とても嬉しそうに、その幼い顔に綺麗な笑みを浮かべた。

 「ギグってすっげーいいひとだな!大好きだ!」

 無邪気に、そんな事を云う。
 私はそれに苦笑を返しながら、頼むからそれは不壊の前では
 云ってくれるなと思った。
 誰が聞いても他意のないその言葉にも、あの男は激怒するに違いない。
 (そして理不尽にもその怒りは私に向けられるに違いないのだ)

 そんな事を考えていると、玄関で呼び鈴が鳴った。
 この部屋に知人が訪れる事は稀なので、セールスか何かだろうかと
 インターフォンに向かおうとしたその時。

 「ちょっと、ドア開いてんじゃないの。無用心ね」

 「ホントね〜。でも開いてるって事はぁ、誰かいるのよねぇ?」

 聞き覚えのある声が玄関からダイニングルームへ近付いて来る。
 …ああそう云えば。
 急に会社から呼び出しを受け、恋人とゆっくり過ごそうとしていた休日を
 邪魔されて怒り狂った不壊が出て行った時、いらぬとばっちりを
 受けぬようにと見送らなかったのだが。
 あいつ、鍵閉めずに行ったのか…。

 今こちらに向かっているこの声の主達は、不壊と私の、稀なる共通の知人だ。

 不味い事になった。
 この2人に不壊と少年の関係がバレてしまうと、何かしら問題が起きるだろう。
 彼女達は非常に珍しい、あの不壊を「男」として扱う事のない人種なのだ。
 …絶対に面白がって、不壊を揶揄うネタにされる。
 不壊が玩具として遊ばれるのは構わないが、目の前の少年が彼女達の
 毒牙に掛かるのは可哀相だと思うし、大抵そんな時は私も巻き込まれる。
 それだけは勘弁して欲しかった。
 
 しかしそんな思いも虚しく、彼女達はこの部屋まで辿り着いてしまった。

 「不壊〜いるぅ?」

 「あの男がいる訳ないでしょ…って、ちょっとギグ、鍵掛かってなかったわよ。
 無用心にも程があ…」

 言葉の途中で、彼女達は私の前にいる子供に気付き、視線をそちらに向けた。

 少年はいきなり勝手に上がり込んできた女達に多少驚いたようだったが、
 それでもやはり礼儀正しく「こんにちは」と2人に向けて云う。

 彼女達…ハルとウタは、ぱちりとお互い顔を見合わせて。

 「こんにちは〜」

 ハルが持ち前の暢気さで少年に挨拶を返し。

 「…やだ、ちょっとギグ、まさかあんたの隠し子?」

 ウタがいつものキツい口調で、私に云った。

 …ウタ、お前は私までもそういう目で見ているのか。
 不壊じゃあるまいし、そんな事ある訳がないだろう。

 普段の私なら、即座にそう云っているところであったが、曲りなりにも不壊の
 恋人である少年の前でそんな事は云えない。

 ここのところ遺憾なく発揮されている自分のお人好しっぷりに溜息をつきながら。
 これから色々とややこしくなるであろう同居人の恋愛事情に、眩暈を覚え、
 顳顬を押さえた。

 

 

 

 


…あれ?何か続きそうな感じで終わってしまった…!
いや、別に全く続き考えてないんですけど…(汗)
お人好しギグは書いてて楽しかったです。
 
07/5/8