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レジェンズウォーとは、避ける事の出来ない螺旋の運命。
戦うために生まれてきた、レジェンズの宿命。
そのために目醒めた、この文明に。
サーガと共に、この星を守るための。
それは崇高な戦い。
その戦いの合図は、ウィンドラゴン。
お前によって、戦いの火蓋は切って落とされるのだ。
高き光と青い苑
見上げる青空の、雲の流れが速い。
一箇所に収束するかのように、風に流されていく細い雲の群れ。
それがまるで自分たちの行く末を暗示しているようだと考えて、
思わず自嘲する。
「オレが戦いの合図、ってか?馬鹿馬鹿しい…」
ボソリと呟くシロンの声は、しかし覇気がなく。
ガリオンに云われた言葉を何度も反芻して、小さく溜息をついた。
子供たちは彼女の言葉に戸惑い、思い悩んでいる。
回避不能と云わしめた運命の戦い、レジェンズウォー。
全てを滅ぼすその戦いに、身を投じなければならないと。
彼らにとって大事なものを、全てを滅ぼしてしまうその戦いに
加担しなければならないと。
その重責を、小さな肩に背負わされて。
目の前では風のサーガが白い布地の上に座り込み、
黙々と子供の落書き以下のセンスが悪いクラブのシンボルマークを
書き込んでいる。
この、子供は。
不安を顕わにする子供たちに向かって、大丈夫だと笑っていた。
もしもの時は自分が何とかするから、と。
その一言で、他の子供たちは笑顔を取り戻した。
どこまで本気なのだろうと、シロンは思う。
目の前の子供は、4人のサーガの中では一番最初にレジェンズと接触した。
風のサーガとしての力を時々無意識の内に解放しているその姿は、
本人の自覚は全くないようだが4人の中で一番「サーガ」としての
能力が高いと思わせる。
しかしこの子供が、どこか心の根底で自分との関係に境界線を
引いている事も知っている。
大切なものを―――母親を、この戦いに巻き込みたくないがために。
不本意ながら、父親は既に巻き込んでしまった。しかしそれでも、
なるべく戦いの場からは遠ざけようと必死になっている事も知っている。
本来ならば。
真っ先に逃げ出したいのは、この子供のはずだ。
しかし今彼は、こうして自分の傍にいる。
何かと自分を邪険に扱ってはいるが、この子供は結局自分の傍にいる。
彼らの生きてきた全てを、これからも歩み進もうとしている全てを
滅ぼすレジェンズウォー。
戸惑う子供たちの中でただ一人、あのガリオンにそれは間違いだと
反目した子供。
この子供に惹かれるように、自分もガリオンに反目していた。
自分が戦いを起こす役目を担っているのなら、自分がその合図を
しなければいい、と。
簡単な事だ、と。
その言葉に偽りはない。しかし。
不安は、ある。
次々と襲いくる闇のレジェンズと、人間を巻き込んだ戦いに。
いつか、本当に。
レジェンズウォーは引き起こされてしまうのではないか。
そうなってしまった時に、自分は。
この子供を。子供たちを。彼らの大事なものを、守る事が出来るのだろうか。
そんな不安が、心の片隅にあることは否めないのだ。
シロンは再び、自分に背を向けている子供の姿を見遣る。
風のサーガ。
おまえは。
レジェンズウォーは止められると、本気で。
本気で、そう思っているのか?
螺旋の運命は、断ち切れるのか?
変える事が出来るのか?
背を向けていた子供が、不意にこちらを向いた。
「なにぶつぶつ云ってんだ、おまえ」
怪訝な顔をこちらに向けて、子供が口を開く。
その言葉に、うっかり声に出していた事に気付いたシロンは、
気まずそうに顔を背けた。
そんなシロンに構う事なく、子供は更に言葉を綴る。
「らせんのなんたらって、給食委員が云ってたやつ?
レジェンズウォー、とか云うアレ?」
手にしていた油性マジックを置いて、身体ごとシロンの方へ向き直る。
しかしその表情は、特に真剣な訳ではなく。
シロンはどう返事をしようか一瞬迷ったが、思い切って先ほどの疑問を
ぶつけてみる事にした。
「おまえは、戦いの運命を変えられると思うか?」
その質問に子供は、眉間に皺を寄せてシロンを見上げた。
「そんなこと、オレが知るワケねーじゃん」
きっぱりと告げる子供に、シロンは深い深い溜息をついた。
やっぱりコイツはただのバカか。
少しでもまともな返答を期待した自分もバカだったと、がっくり肩を落とす。
しかし子供は悪怯れる様子もなく、更に口を開いた。
「おまえから見てどうよ?」
聞き方は些かお座成りだったが、視線だけはまっすぐこちらを向いていて。
その視線に少しだけ戸惑いながら、シロンはボソリと呟いた。
「…ガリオンは変えられないと云ってたな」
「給食委員の事は今はいいよ。おまえはどうかって聞いてんの」
今度は、意志の籠った強い言葉で訊ねられて。
曖昧な返答は許さないというような瞳に、シロンは小さく深呼吸をした。
「…変えるさ。オレが、変えてやる」
そう、言葉にしてみただけで。
少し胸に蟠っていたものが溶けたような気がした。
子供はその言葉を聞くと、にかっと白い歯を見せて笑った。
「じゃあ、それでいーじゃん。変わるか変わらないかとかじゃなくてさ。
大事なのは変えたいかどうか、って事なんじゃねーの。ま、オレには
よく分かんねーけど。変えたいなら変わるように頑張ればいーじゃん」
そう云って、再び背を向けて旗作りに専念し始める。
調子の外れた鼻歌なんかを歌いながら。
小さな子供の背中を見つめて、大きな竜は。
苦笑混じりに溜息をひとつ。
適わなねーなぁ、このガキには。
心の中でそう呟いて。
この子供がいれば大丈夫だと。
眩しそうに目を細めて、青い青い空を見上げた。
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