どれほどこの時を待ち望んだ事だろう。
 我ら妖の怨敵、逆門から解放される、この時を。

 少年はげぇむに勝利し、かの大願を果たしたのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日々、貴方を想う
 

 

 

 

 


 この後は一体如何されるのですか、と問えば。
 子供は大きな瞳を更に大きくしてこちらを見てから、ぱちり、とひとつ瞬きをして。
 傍らに、寄り添うように並び立つ痩躯の男を仰ぎ見る。
 その視線に応えるように、男は紅い眼を細めた。

 「オレたち、島に帰るよ」

 島、とは彼の人が生まれ育った場所なのだそうだ。
 いつか皆で遊びに来い、と。
 自分もまた、この場所へ遊びに来るから、と約束し。
 以前、この里を出て行った時と同じ…いや、あの時以上に綺麗な笑顔で。
 彼の人は、再び自らの世界へと還って行った。
 ―――あの男と、共に。

 

 

 

 

 

 それからまた、彼の人と共に戦っていた間には忘れ去っていた「時間の経過」が、
 己の思考を、心を乱し始めた。
 彼の人は、いつか再びこの地を訪れると約束した。
 …だがそれは、いったいいつの事なのだろうか。
 すでにげぇむは終了し、彼の人はそれ以前と同様の、平穏な日々に戻っていったのだ。
 我々との…人ならざる者たちとの約束など、もう――忘れてしまったのではあるまいか。
 彼の人が、約束を違えるようなひとではないという事は、よく知っているはずなのに。
 時が経つにつれ、埒の明かない事を考えるようになっていく。

 ―――何故、こんなにも。
 こんなにも彼の人の存在が、この心を占めているのだろうか。
 他の妖たちは、彼の人との再会を願いながらも、平素と何ら変わらぬ暮らしをしているのに。
 己だけが、こんなにも―――彼の人に会えない事に、焦燥を感じているのだ。
 しかしこの焦燥感は、彼の人に会えない事だけに起因しているのではないのだろう。
 きっと、今も彼の人の傍らに在るであろう、あの男の――あの、紅い瞳の男の存在が、
 己の心を揺さぶっているのだ。
 そう…逆門から解放され、己が身体を取り戻したあの男。
 男はそのまま妖怪城へ戻る事はせず、彼の人と共に、彼の人の生まれ育った地へ旅立った。


 ―――オレたち、島に帰るよ―――


 この後、如何するのかと問いかければ、彼の人は、少し不安気に男を仰ぎ見て。
 男はその視線を受け、「大丈夫」と云うかのように、柔らかくその紅い眼を細めた。
 その表情を認めた彼の人は、嬉しそうに――本当に嬉しそうに、幼い顔を輝かせて。
 オレたち、島に帰るよ、と。
 二人で、島に帰ると。
 綺麗な笑顔で、そう云ったのだ。
 男はその身を取り戻した。今では、彼の人の影に潜む事はなく、取り憑くという形で
 彼の人の傍らに在るのだろう。





 また来ると、約束だけを残して還って行く小さな背中を、再び見送った。
 光の向こうへ消えて行く彼の人を引き止めようと、伸ばしそうになる腕を抑えながら。
 手を伸ばす事が出来なかったのは――あの男と、彼の人の。
 二人の間に確かと結ばれた、目には見えぬ絆のせいだろう。
 彼らの、信頼と云う名の絆の間には、何人たりとも入り込む事は許されない。

 此度もまた、己は。
 ただ黙って、二人を見送る事しか、出来なかったのだ。

 

 

 

 あれからどれだけの時が過ぎたのだろうか。
 彼の人を想って待つこの身では、恐らく常とは感覚が違っているのだろう。
 もう、酷く長い時間が経っているようにも感じるが、本当は、まだほんの少ししか時が過ぎて
 いないのかもしれない。


 会いたい。

 彼の人に、あいたい。

 その想いだけが、この心に降り積もって行くのだ。

 

 

 

 

 

 


 …あれ、まだこの人ネガティブに考え込んでますよ?
 こんな状態でも全然三志郎への想いが恋愛感情である事に
 気付いていない天然雷信兄さん。(笑)