「よぉ、お前ら。いいトコに来たな!」
ここはイーストシティ、東方司令部。
エルリック兄弟が久々に訪れたそこで、本来ならば
中央でデスクワークをしている筈の人物に出迎えられた。
「…なんでヒューズ中佐がココに居るんだよ…?」
至極当然の疑問を口にしたエドワードには応えず、
中佐は楽しそうに手にしていた紙袋を彼に渡した。
「お前らも付き合え!毎度毎度文献だの何だの
漁ってたんじゃカビが生えちまうぞ?」
周囲を見れば、他のメンツも同じように大きな紙袋を
抱え、どこかに出かける準備をしているようだ。
「…皆さんお揃いで、どこか行くんですか?」
アルフォンスが首を傾げつつ尋ねるのと、隣の兄が
紙袋の中身を確認して溜息をついたのは同時だった。
「兄さん?」
「…何だかなぁ…。今日びの軍人ってのは随分ヒマなんだ…?」
平和で結構だけど、と呆れたように呟いて紙袋を弟に渡す。
受け取ったアルフォンスは、その中身を覗き込み。
無造作に詰め込まれた菓子やらジュースやらを見つめ、
成る程ね、と言葉を漏らした。
そこへ、青いビニールシートを抱えた大佐が現れて。
「やぁ、君達。来ていたのか。丁度いい処に来たな。」
先程の中佐と同じ言葉を繰り返し。
「これから花見をするのだが、一緒にどうかね?」
これまた実に楽しそうに、兄弟を誘った。
◆花吹雪争奪戦◆
「…こんな真昼間っから軍服姿で花見かよ…」
一際大きな桜の木の下に陣取って。
ビニールシートの上で、和気藹々と菓子やらジュースやらを
並べる軍人達を眺めながら、エドワードは溜息をついた。
「堅いコト云うんじゃねーよ。ホレ。」
中佐に渡されたジュースの入った紙コップを受け取りつつ、
そう云えば何故東方司令部に中佐が居るのか、聞いて
いなかった事を思い出した。
何となく予想はつくが、一応尋ねてみる。
「で、中佐は何でココに?」
「まぁ、ご想像の通りだと思うけどな。出張でコッチに
来ててよ。中央ではもう花も散り始めちまったけど、
コッチは今が見所だし、昨日ロイの野郎に花見の話を
持ちかけたってワケよ。」
「…よくお許しが出たもんだな…」
チラリとホークアイ中尉に視線を向ければ。
それに気付いた中尉は、にっこりと微笑んで。
「偶には息抜きさせないと、ちゃんと仕事してくれないから。」
飴と鞭はきちんと使い分けないとね、などと怖い事を云った。
全員に飲み物が行き渡ったのを確認して、大佐が
乾杯の音頭をとり。
直後に勢い良くジュースを飲み込んだフュリー曹長が、
盛大に咳き込んだ。
「わ、大丈夫ですか?」
慌てて何か拭く物、と探し始めるアルフォンスの横で、
曹長は涙目になりながら声を上げた。
「…っこ、これ…!お酒じゃないですか!?」
「えっっ!?」
「そうだよ、花見には酒だろ。」
何云ってるんだ、くらいの勢いで。
ハボック少尉は器用にも口の端に煙草を咥えたまま、
紙コップの中身…米やら麦やらから出来たジュースを飲んでいた。
「そうだよって…い、一応まだ勤務中ですよ…?」
「時には息抜きも必要だって、中尉も云ってただろ?」
「え、中尉は容認なんですか?」
「ま、今回は珍しくな。羽目を外し過ぎなければ、って注意付きだけど。」
…実のところ、中尉自身が一番ストレス溜まってるんじゃないかなぁ。
などと暢気に思っていたアルフォンスだったが。
「…!兄さん…ひょっとして兄さんに渡したのもお酒ですか!?」
「当然!未成年なのにとか堅い事は云いっこなしだぜ?」
なぁ、エド!と豪快に笑いながら、中佐がバシバシとエドワードの
背中を叩く。
「!!ヒューズ中佐、離れてっ!!危ないっ…!」
慌てた様子で振り向いたアルフォンスに、一同は「?」となった。
「危ないって…なに、が」
云いかけた中佐は、下から伸びてきた腕に言葉を遮られた。
エドワードの腕だ。
中佐の首に手を回し、グ、と力を込める。
驚いて見下ろせば、エドワードは空の紙コップを握りつぶして俯いていた。
「…お、い。エド…?」
遅かった、と。
小さく呟いた筈のアルフォンスの言葉が、桜の木の下に居る者達には
何故か酷く大きく聞こえていた。
エドワードは俯いて中佐の首に片腕を回したまま、ピクリとも動かない。
中佐は中佐で、首根っこを捕まれているので動くに動けない。
アルフォンスが、今ならまだ間に合うとばかりに身を乗り出した。
が、それを合図にしたかのように、エドワードが素早く動いた。
「…!エ…」
その名を呼ぼうとした中佐が、勢い良く首を引っ張られて。
ぅちゅう。
「・・・・・!?っ、・・・・・・。」
まるで時が止まったかのように。
その場に居る者達が、硬直した。
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