僅かな静寂の後、アルフォンスがあ〜ぁ、と小さく溜息をついた。 中佐はゆっくりとエドワードの両肩に手を乗せて、自分に引っ付いていた 小さな身体を引き離し。 「…こいつ、酔うとキス魔になるのか…?」 特に動揺するでもなく、アルフォンスに問い掛けた。 「えぇ、まぁ…おまけに…」 弟の言葉を遮って、兄は実に楽しそうに、大声で笑い始めた。 「笑い上戸になるんです…。」 がっくりと肩を落としたアルフォンスと中佐を他所に、 エドワードは只管笑い続けている。 最早、典型的な酔っ払い例・其の一だ。 「…ヒューズ…」 ここで漸く、硬直が解けた大佐がゆらりと立ち上がった。 中佐に抱きつく恰好で笑い続けるエドワ―ドをビシィ!!と指差しながら。 「貴様…鋼のに!きっ…キスしたな!?」 「今のはどう見ても俺が『した』んじゃなくて『された』んだと思うが」 「許せん!許せんぞ!!私だってまだ鋼のとキスしたことないのに!!」 「いや聞けよヒトの話。」 ひょっとしてコイツも酔っ払ってんのか?とも思ったが、 この程度の酒量でこの男が酔うはずは無い。 …要するに本気で、フッツーに、エドワードとキスしたことに 腹を立てているらしかった。 それはそれでどうかとも思うが。 「鋼の、そんなスケベオヤジの傍に居たら危険だぞ。こっちに来たまえ。」 「…お前さんにそう云われるのは何より心外なんだが…」 中佐の言葉はまるっきり無視しつつ。 大佐はエドワードを引き剥がして自分の小脇へ抱え。 「では、私は鋼のを介抱しに行く。君達は花見を続けていてくれたまえ。」 云うが早いか、エドワードを小脇に抱えたまま走り去ってしまった。 「…って、ヤベェ、暢気に見送ってる場合じゃないぞ!」 うっかり硬直したまま大佐を見送ってしまった一同(中佐・アルを除く)は、 慌てて立ち上がった。 「大佐、きっと『酔った弾みで』とか云いながらエドにアレやソレなこと するつもりだぞ。早く捕まえないと」 ブレダ少尉が飲みかけの紙コップを放り投げて云う。 「そ、そんな事!させませんよ、絶対に!!」 いつもより強い口調で、フュリー曹長が顔を上げた。 「事は一刻を争うな。中尉、もしもの時は…」 ファルマン准尉が中尉を振り返り。 「ええ。エドワード君の身に何かあった場合は、」 ニッコリと、絶対零度の微笑を浮かべた中尉は一言。 「発砲を許可します。」 さらりと付け加えた。 「ええぇえぇええええぇ!!!??」 驚いたのはアルフォンスで、あたふたと傍に居たハボック少尉に 問いかける。 「は、発砲って!?に、兄さんの身に何かって!?み、皆何か 目が恐いんですけど、じょ、冗談ですよねっ!!?」 少尉は相変わらず煙草を咥えたまま、ポン、とアルフォンスの肩を叩いて。 「…心配すんな、アル。大将には絶対当てないから!」 微笑みながらグッ!!と親指を前に突き出され、最早言葉の出ない アルフォンスだった。 そんなやり取りを黙って見ていた中佐が、一体どういう訳だと中尉に尋ねれば。 「あら、中佐はご存知ありませんでしたか? エドワード君は東方司令部において、アイドル的存在なんですよ? ファンクラブまで出来るくらいの。」 「…うーん、まぁ…気付いてたっつーか…気付きたくなかったっつーか…」 曖昧に頷きつつ頬を掻く中佐に、中尉は薄い笑みを浮かべて。 「だから、中佐もお気をつけて。何しろエドワード君と、故意ではないにしろ キスしてしまったのですから。彼には一部熱狂的なファンも居る事ですし…」 「…中尉…目ェ、笑ってないぞ。マジで…。」 花弁舞う桜の木の下、暖かな日差しの中で。 一人、極寒の冷気を感じる中佐だった。 「ともかく、大佐を追おう。こうしてる間にも大将が何かされてるかもしれん」 「よし、じゃあ各々大佐の行きそうなところを虱潰しに探そう。 まだそう遠くへは行ってない筈だ。」 手分けして大佐を捕獲、エドワードを保護。 中尉曰く「熱狂的な一部のファン」達は任務遂行のため散っていった。 後に残されたアルフォンスは、ただ只管おろおろとするばかりで。 共に残された中佐は、まぁなるようになるだろう、と静観することにしたのだった。 |