真っ先に目標を捕捉したのは、フュリー曹長だった。

  大佐は小脇に抱えていたエドワードを横抱きに抱き直し、
  曹長の300mほど前方を走っている。
  エドワードは今は眠っているようだった。

  大佐はまだ、後方から接近する自分に気付いていない。
  勿論、気付かれたらお終いだ。
  相手は『焔の錬金術師』。
  戦闘になった場合、勝ち目は全く無いだろう。

  …『エドワードファンクラブ』の彼にとって、今の大佐はエドワードに
  害を成す危険人物に他ならない。
  つまりそれほど、エドワードに関しての大佐は部下に信用されない
  上司なのであった。


  さて、どうするか。
  曹長は素早く辺りを見回した。

  「…!これ、使えるかな…?」

  無造作にゴミ箱に突っ込まれていた鉄材を引っ張り出す。
  手にしたそれは意外に軽く、具合良く薄く、緩くカーブしている。

  上手く行く確率は、極めて低い。
  が、メンバーの中で一番能力的に劣る彼は、他に良い手も思い付かず。

  「一か八か…やってみるか」

  鉄材を手に、大佐を追って走り出した。



  一方、大佐はといえば。
  普段こんな事をしたら、まず右腕で張り倒されるであろう事――
  念願の『お姫様抱っこ』ができ、ご満悦だった。
  尚且つ、普段では絶対に有り得ない事だが、エドワードは
  しっかりと大佐に抱きついて眠っている。

  この機を逃してなるものか!!

  邪に燃える大佐の耳に、低く風を切る音が聞こえるはずも無く。
  見事、曹長がブーメランの要領で投げた鉄材が大佐の脚にヒットした。

  「どぁあっ!?な、何ィッッ!!?」

  上手い具合に脚の間に滑り込んだ鉄材に脚が縺れ、派手に転倒する。
  その勢いで、横抱きにしていたエドワードが空中に放り出されてしまった。

  「は、鋼の!!」

  慌てて飛び起きようとしたが、鉄材でしこたま脛を打ち、痛みで立ち上がれない。
  あわや地面に激突、という寸でのところで、後方から猛ダッシュして来た曹長が
  エドワードを受け止めた。

  「そ、曹長…!」

  「すみません大佐、失礼します!!」

  曹長は謝りながら、そのままエドワードを抱きかかえて走り去ってしまった。

  「くっ、待たんか!こ、こんな事では諦めんぞ――!!」

  大佐の喚き声を背中に聞きながら、曹長は必死にその場から遠ざかった。





  「…こ、ここまで、来れ、ば…大、丈夫…かな…」

  エドワードを抱えたまま、曹長は息を切らしてへたり込んだ。
  ちょっと休憩、と座り込んだまま呼吸を整えていると、
  小さな声を上げてエドワードが目を醒ました。

  「…ん…曹…長…?」

  「や…やぁ…目、が、醒めた…?」

  少し眠ったといっても、早々酒が抜ける訳でもなく。
  未だ赤く染まった顔、とろんと潤んだ金の瞳がこちらを向いた。

  「…え…えー、と…あの、エド…ワード、君…?」

  普段とは別人のようなエドワードに、曹長の鼓動が高鳴る。
  …おまけに段々、顔が近付いてきてる気もする。
  は、そう云えば!と気付いた時、既に曹長はエドワードに
  押し倒されていた。

  「えっ…あ、あの、ちょ…」

  「んん〜…そぉちょぉ〜…」

  
  ぅちゅうぅ〜〜。


  …わすれてた…キス魔、だったんだっけ…。

  パタリ、と。
  エドワードよりも顔を真っ赤にした曹長は、頭から湯気を出して
  気絶してしまった。

  フュリー曹長。純情一途な男であった。





  「…なんか、物凄く…幸せそうな顔してるんですけど…。」
  
  1人気絶している曹長を発見したのは5分ほど前。
  結局、皆の後を追いかけて来たアルフォンスと中佐は、
  ここで任務に失敗したらしい曹長を見つけた。

  「まぁ、察するにエドを奪還したは良いがキスされて気絶
  しちまったってトコだろうなぁ…。」

  「兄さんの姿が無いって事は…」

  「ロイの野郎がまた連れ去ったか、他の連中が確保したか。
  それとも1人でフラフラしてるか…。」

  全くもって、面倒な事になった。

  「…ま、ここに捨てていく訳にもいかないだろうなぁ」

  「そうですね…」

  溜息交じりでアルフォンスが呟きながら、曹長を抱え上げて。
  2人は再び、エドワードを探して歩き出した。


 

 

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