「ファルマン准尉!」 呼ばれて振り向いた先には、エドワードを背負ったブレダ少尉が立っていた。 「少尉!鋼のは?」 「無事みたいだな。ちょっと前に1人でフラフラ歩いてるのを見つけたんだ。」 背負った途端に眠ってしまったエドワードは、 それでもしっかりと少尉にしがみ付いている。 時々むにゃむにゃと寝言を云うさまに、少尉と准尉は顔を緩ませた。 そしてふと、お互いのだらしない顔が目に映り、2人して咳払いをしながら 顔を背けた。 「と、ところで。彼が1人で歩いていたとすると…大佐は どうなったんでしょうか?」 「うーん、考えられるのは…誰かが大佐からエドを救い出して 逃がしたんじゃないか…?多分…。」 「ともかく、ホークアイ中尉と合流しましょう。 例えこっちは2人だと云っても、大佐相手には不利でしょう。」 「…あの人も、エドの事になると全く回りが見えなくなるからなぁ。」 その気力・集中力を仕事に回してくれれば良いのに。 少尉と准尉は、同時に溜息をついた。 「それじゃ、行くとするか。」 よいしょ、とエドワードを背負い直して、少尉が歩き出した。 それに准尉が続こうとした、まさにその時。 「フフフ…見つけたぞ!ブレダ少尉、鋼のをこちらへ渡したまえ!!」 ザ!と立ちはだかったのは当然、ロイ・マスタングその人。 そしてその腕には、首輪と手綱をきちんとつけた中型犬が抱えられていた。 「いっ…犬…ッッ!!!」 少尉の顔から、一気に血の気が失せていく。 ニヤリと笑みを浮かべた大佐は、ジリ、と少尉に歩み寄り。 「た、大佐!!一体どこから犬なんて!!?」 少尉を背中に庇いながら、准尉が叫んだ。 「先刻、少尉が鋼のを連れているのを見かけたのでね。 民間人の少年が散歩していたこの犬を、少年が少〜し 目を離した隙にお借りしたという訳だ!!」 「いやそれフツーに誘拐(?)じゃないですか!犯罪ですよ!?」 「何をぅ!ちゃんと『貸してね』って(小声で)云ってきたんだぞ! 上司を犯罪者呼ばわりするとは何事か!!」 「飼い主の了承を得てないじゃないですか!!」 「むぅ、ああ云えばこう云う!!一体何と云えば納得するのかね、准尉!」 最早完全に論点がずれていた。 とても国家権力者たちの会話とは思えないほどに。 大佐は既にエドワードの事で頭が一杯だったので、 自分の挙動不審さに特に疑問を持ってはいなかった。厄介な事に。 准尉としては、この下らないやり取りに大佐が気を取られている内に、 少尉にエドワードを連れて逃げて欲しかったのだが。 肝心の少尉は、犬から視線を外せないまま、准尉の後ろで震えたままだった。 「…まぁいい。早く鋼のを渡したまえ。でないと…」 大佐の腕の中で、ワン!と愛想良く犬が吼えた。 その途端。 「う、うわあぁぁああ!!犬嫌い、犬キライ―――!!!」 絶叫しながら少尉は、ポイ、とエドワードを放り出した。 犬への恐怖には勝てなかったらしい。 『!鋼の…!』 大佐と准尉の声が重なった。 2人同時に、空中に投げ出されたエドワードに向かって手を伸ばす。 …当然その時、大佐に抱えられていた犬は、自由の身となり。 慌てて逃げ出した少尉の後を、嬉しそうに追いかけていった。 そして大佐の誤算は、犬に繋いであった手綱が、予想より長かった事で。 エドワードに気を取られていた大佐は、手綱が自分の足に絡みついた事に 気が付かず。 ワンワン、ワン!! 「ぬあぁ!?へぶぅ!!だ、どうああぁぁぁああぁ!!!」 …と、意味不明な言葉を発しながら、見た目よりもパワーのある 中型犬に引き摺られて行ってしまった。 当然、エドワードは准尉がしっかりキャッチしていた。 「助かった…。少尉、貴方の尊い犠牲は無駄にしません…!!」 と、少尉が逃げ、大佐が引き摺られて行った方向に敬礼すると、 エドワードを抱えて逆方向に走り去ったのだった。
|