携帯灰皿に短くなった煙草を放り込んで、新しい煙草を咥え。
  火をつける前に、前方からフラフラと歩いてくる人物を見つけた。
  それはまさに、今ハボック少尉が探している人物で。

  「…おい、大将!」

  呼べば、酷く緩慢な動作でこちらを向いて。
  人の顔を見るなり、大爆笑を始めた。

  「あのガキ、まだ酒が抜けてないのかよ…」

  走り寄り、その腕を掴む。

  「えーと…お前さん、1人か?大佐は?」

  「知〜らな〜い〜…ふぁるまん、じゅんいとぉ〜…いっしょ、だ…った」

  えへへへ、と笑いながら喋るエドワードに溜息をつきながら。
  少尉は、その准尉はどうしたのかと聞いてみる。

  「ん〜…?なんか〜、…なんだったっけ…?そ〜だ、といれ!
  いきたい〜、ってオレ、そのまんま…じゅんいのトコ、いかないで〜、
  こっち、きちゃった〜!」

  つまり。トイレに行くといったまま、准尉のところへ戻らずに
  1人フラフラとしていたらしい。

  「…たっく、しょーがねーなぁ…。
  まぁ、取敢えずまだ無事みたいだからいいけど…」

  とにかく大佐に見つかる前に、中尉達と合流しなければ。
  辺りを警戒しつつ、エドワードに声をかける。

  「大将、歩けるか?」

  「えぇ〜?あるくの、や〜」

  「や〜、じゃなくて。ホラ、シャンと立て、シャンと。」

  「しょうい、かたぐるま!かたぐるまして〜!!」

  軍服の裾を掴み、エドワードがおねだりを始める。
  これまた普段の彼からは想像も出来ない行為で、
  潤んだ瞳で上目遣いにお願いされては、少尉も断れる筈がなかった。

  「あーもー…今回だけだぞ!ほら。」

  「やた〜、かたぐるま〜!!」

  エドワードはキャッキャとはしゃぎながら、少尉の肩に跨った。
  少尉が立ち上がると、高い、高いと手を叩いて喜んで。
  周りから見たらさぞかしおかしな2人組なんだろうなぁ、などと
  暢気な事を少尉も考えながら、仲間を探すために歩き出した。

  それから延々と、何やら訳の分からない事を喋り続けていた
  エドワードだったが。
  10分ほどすると、突然喋るのを止めてしまった。
  急に静かになった頭上を、何事かと振り仰ぐ。

  「…大将?どうし…」

  云いかけた少尉の顔に、エドワードの顔が近付いてきて。


  ちゅうぅ〜。


  思いっきり、額にキスされた。

  「…大将…。」

  「にゃははははは、びっくりした?びっくりした!?」

  全くどうしてくれようこのお子さまは。
  少尉が溜息をついた時、横合いの茂みがガサリ、と揺れた。
  ギョッとして振り向けば、そこには。
  全身ボロボロの大佐が、ゆらりと佇んでいた。

  「うっわ…こっちの方がびっくりだよ、俺…。」

  何だか嫌なものでも見るような目付きで、少尉はジリリと後退さる。
  大佐は異様なオーラを出しながら、ゆっくりと近付いてきた。
  そんな大佐を、最初は驚いて見ていたエドワードだったが。

  「あはははははは、なにそれ、たいさ!!ボロボロ〜、
  
カッコワリィ!!

  死人に鞭打つような事を云った。

  「いや大将、それ思っても云っちゃ…あ、ほら大佐ヘコんでるよ」

  「らって、カッコワルくね!?あははははは!!!」

  更なる追い討ちに、大佐はしゃがみ込んで地面に『の』の字を書き始める。
  しかも何かブツブツ云いながら。

  「た、大佐。そのボロ布みたいな恰好でそんなコトしてると
  変質者に間違われるスよ…?」

  「う、うるさい!!これと云うのもあの犬が…!」

  「犬?って何スか?」

  「ぃやっかましい!!ハボック、貴様!!貴様までもが鋼のに
  キスしてもらえるなんて何て羨ましい!!」

  素直に心底悔しがる大佐に、呆れたように少尉が云う。

  「…キス、たって…額じゃないスか。オデコにちゅ―、ですよ?」

  「それでも羨ましいんだい!!」

  「いや、『だい!!』って云われてもなー。」

  既に子供の喧嘩レベルだった。

  「しかも肩車!!私だって鋼のを肩車したいんだぞ!!」

  「これは大将がやれって…まぁそれはともかく、大佐の場合は
  色々とそれだけじゃすまないでしょうが。」

  既にムキになっている点で、この口喧嘩(?)で大佐に勝算はない。
  いつもならこんな事は有り得ないのだが、エドワードに関しては
  とことんヘタレな男、ロイ・マスタングであった。

  「うっ…ま、まぁそれは…とにかく鋼のをこちらに渡したまえ!」

  「お断りします。」

  「くっ、飽くまで渡さない気か…では、少しばかり手荒な方法を
  取らせてもらうぞ!!」

  云いながら、ポケットから発火布を取り出した。

  「ちょっ…正気ですか、アンタ!?」

  「なぁに、ちゃんと手加減はするから安心したまえ!!」

  親指と人差指に力を込める姿を見て、少尉は慌てて逃走体勢をとった。
  …が、肩の上にエドワードがいる事を思い出す。
  このままエドワードを肩に乗せたままでは逃げ切れない。

  「大将、ちょっと降りてくれ!!」

  咄嗟に腕を引っ張って引き摺り下ろし、空中でくるりと一回転させ、
  すとん、と地面に着地させた。

  そしてまさにその瞬間。
  少尉の目に飛び込んできたのは、不可視の導火線を伝う
  小さな火花。
  狙いは少尉とエドワードの中間地点。

  「危ない、大将!!」

  エドワードを突き飛ばし、その反動で自分も逆方向へ飛ぶ。
  その直後、思っていたよりは小さく、乾いた炸裂音が響いた。

  「…?あっ、」

  一瞬瞑ってしまった目を開けば、盛大に上がった砂埃と
  僅かに黒く焦げた地面が映り。
  砂埃の向こう側に、エドワードを抱えた大佐が立っていた。

  「云っただろう、手加減すると。まぁ当然、君が鋼のを
  突き飛ばす事を計算した上で発火させた訳だが。」

  「うわ、汚ねぇ〜!狡いっスよ大佐ッ!」

  「狡い云うな!策士と云いたまえ!!」

  そんな口論はともかく、エドワードは敵の手に落ちてしまった。
  おまけに発火布まで持ち出した大佐に、少尉が立ち向かえる筈もない。
  
  今まさに、エドワードの貞操の危機であった。


 

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