「大佐、あれ!」

  小さく叫んだ少尉の目線の先に、美しい痩身の白猫。
  彼らの立つ袋小路の手前の小路と。
  古惚けた、もう住民も殆どいない家屋達とを隔てる木々の垣根から、
  『彼女』は悠々と姿を現した。

  まるで品定めでもするかのように。
  左右に立つ男達を交互に見つめたあと、一瞬の間をおいて。

  『彼女』は素早い動きで、少尉目がけて走り出した。

  「…っ、この…っ!」

  少尉の叫びと、

  「!いかんハボック!」

  大佐の、彼を静止する声。
  そして『彼女』が軽やかに地を蹴る音が同調した。

  「この猫っ…、う、わあぁ!?」

  短い悲鳴をあげ、少尉が壁際に積み上げられた粗大ゴミに突っ込む。
  盛大な音を立てて崩れ落ちてくるガラクタに埋もれていく少尉を尻目に、
  『彼女』はさっさと塀の上へ逃れてしまった。

  「…だから待てと云ったのに…」

  「云ってない!云ってないっスよ!!」

  溜息をつきながら云う大佐に、ガラクタの山から勢い良く
  頭を出しながらツッコむ少尉。
  そんな心温まる(?)会話を眺めつつ、高々と聳える塀の上の『彼女』は
  ひとつ欠伸をした。

  「くっ!お前せいで猫に馬鹿にされたぞ!」

  「いやそんな事悔しがってないでさっさと捕獲してくださいよ!!」

  「しかし塀の上では…今までの経験上、捕獲ネットでは役に立つまい」

  「梯子練成するとかできないんスか!?」

  「登っている間に逃げられるに決まっているだろう!!それに私は
   鋼ののように練成陣ナシでパッと練成することはできん!
   陣を描いているうちに逃げられるのがオチだぞ!!」

  「ぐわっ!役に立たねぇ!!本気で無能じゃないスか!!」

  「無っ…!!??」

  不毛な会話がエスカレートしようとしたその時、
  先ほど『彼女』が出現した垣根が大きく揺れた。
  二人が咄嗟にそちらを向くと、伸び放題の枝を掻き分けて
  出てきたのは…

  「あれ、大将?」

  「なにッ!?は、鋼の!?」

  「!!大佐、少尉!?猫は!?」

  二人の目線を追って、正面の煉瓦の塀を仰ぐと。 
  待っていたわよ、と云わんばかりに、ニィっと口の端を吊り上げた
  『ハニー』と目が合った。

  「っだよ、二人揃って逃がしてんなよ、無能コンビ!!」

  這うようにして垣根の隙間から抜け出したエドワードは、
  途端に男達に向かって言葉の暴力攻撃を与える。

  「ひ、ヒドイ鋼の!!」

  「む、無能って俺もか!?」

  反論の言葉に耳も貸さず。
  立ち上がったエドワードは、体中に纏わりついた
  枯葉や蜘蛛の巣をそのままに、視線だけはまっすぐ『ハニー』を捕らえ。

  大佐目がけて、勢い良く走り出した。



 

 

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