「頭を撫でられている」と気付くまで、少しの時間を要した。 龍斗の意図はまるで分からない。 ただ単に子供扱いされていると思えなくもないが、 天戒にはその行為が酷く心地良く感じられた。 優しく上下する手の動きに。 その心地良さに、身を委ねようとして。 はっと、我に返った。 「…緋勇、離さぬか…」 云いながら、自らは離れられない。 龍斗の暖かい掌から。 …そんな自分に、内心で舌打ちをしながら。 「…緋勇、」 もう一度。 態と声色を低くして、呼びかければ。 「怖がらないで」 耳元で囁かれた言葉は。 「もう自分を殺してしまわないで。 大丈夫…怖くないよ? 一人じゃないから… 俺が…いるから。」 まるで、呪詛を解き放つかのように。 「…緋…勇…」 気が付けば。 両の腕で、しっかりと…しかしどこか縋るように…自分より 少し小さい龍斗の体を抱きしめていた。 「…御屋形様」 どれくらいそうしていたのだろうか。 龍斗が僅かに身じろいで、そっと天戒の肩を叩いた。 「…!す…まん、俺は…」 慌てて離れようとする天戒に、龍斗は笑いながら… 先程と同じように子供をあやすような仕草で、 紅い髪を撫でた。 「謝らないで下さい。俺、嬉しいんですよ? …俺の言葉、ちゃんと御屋形様に届いたから。」 耳元で、微かに吐息だけで笑う気配。 「いつも、なんて云いません。けど時々は、こうして 誰かに…甘えていいんですよ?」 「…甘える?この俺が…?」 それは。 それは許される事なのだろうか。 「そんなに雁字搦めじゃ、その内に息も出来なく なっちゃいますよ?」 まるで天戒の心の内を察したように、龍斗が云った。 「鬼だって、少しくらいは息抜きしないと。」 ね?と、微笑む目の前の男に。 普通なら、感じる筈も無い感情が。 まるで堰を切ったように溢れ出して。 思わず泣きそうになるのを、笑って誤魔化しながら。 「…本当に変わった男だな、お前は。」 茶化すように云えば。 「あはは、よく云われます。」 気を悪くした様子も無く、龍斗は答えた。 …あぁ、やはり。 懐かしい。 記憶の奥底に沈む、微かな『思い出』。 滲むように広がるそれを、天戒が噛み締めていると、 ゆっくりと龍斗が身を離した。 「…と、まぁ一件落着したことですし、屋敷に 戻りましょうか?」 云いながら歩き出す背中に。 「緋勇」 自分でも愕くほどに、柔らかい声で呼びかけた。 「はい?」 その優しい声音に、笑顔で振り向いた彼に、一言。
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