「…あの猫、『ハニー』なんつー可愛らしい名前が付いてるのか…」 げんなりと呟いたハボック少尉の言葉を合図にしたかのように、 その場にいた者が一斉にエドワードを見た。 「なっ…なん…だ、よっ…?」 無言のままで一同に凝視され。 有難くない事に、今や皆の視線を独り占めしているエドワードはジリ、と後退さった。 「…あぁ…確かに…」 「似てるかもしれませんね、金目だし」 「チョコマカとすばしっこいところとか」 「生意気なところとか?」 今まで散々苦労させられた金目の白猫の姿を思い浮かべつつ。 東方司令部の面々は、ちょっぴり冷たい眼差しをエドワードに向けた。 「ね、猫と一緒にすんな!!そんな目でオレを見るな〜〜!!」 エドワードにしてみれば、人様にご迷惑をかけまくっている猫と似た者扱いされるなど、 それこそ迷惑以外の何者でもない。 大人気ない大人達に『猫探し手伝ってやらねぇぞ!』などとこれまた大人気ないことを 喚いていたエドワードだったが、未だうっとりと自分を見つめる『キャットウォーク』に気付き 慌ててアルフォンスの影に身を隠した。 「もう、とにかくどうでもいいから!ソイツ、どっかにやってくれよ!!」 アルフォンスの後ろから聞こえる悲痛な叫びに、大佐は漸く 「…そうだったな…早くその男を取調室へ」 と、部下に命令した。 取調室へと連行される『キャットウォーク』はその扉が閉ざされる瞬間まで、 名残惜しそうにエドワードを見ていたのだった…。 そしてたっぷり5分ほど間を置いて、漸くエドワードはアルフォンスの後ろから姿を見せた。 小さく身震いをしながら、自分の身体を自ら抱き締めるような仕種で、空寒そうに呟く。 「…あ――…怖かった…こんな怖い思いしたのは師匠に思いっきり殴られて 臨死体験したとき以来だぜ…」 その言葉に、アルフォンスがうんうんと気の毒そうに頷いた。 恐らく彼が人の顔を持っていたなら、その表情は青ざめ、涙していたに違いない。 そんな雰囲気を鎧姿で醸し出していた。実に器用な事に。 …一体どーゆー師匠なんだ、ソレは。 一同は見事に同時ツッコミをした。敢えて言葉には出さず、心の中で。 「で、結局どうするんだよ、猫探し。」 元来のペースを取り戻したエドワードが大佐に問い掛ける。 「…ふむ、そうだな。本日の第一陣も帰ってきた事だし。次は我々が打って出ようか。」 云いながら、イーストシティの地図を広げた。 「第一陣には、北区を捜索してもらった訳だが…猫に出くわしたのはどの辺だ?」 「この辺りですかね?」 ブレダ少尉が地図を指差す。 「この辺りには幾つもの細道が入り組んでますね。猫が行き来し易いような…」 呟く中尉の隣で、口の端に新しい煙草を咥えながらハボック少尉が進言した。 「二手に分かれた方がいいんじゃないスかね?確か小型の無線機があったでしょう。 それで連絡を取り合うってのはどうです?」 「そうだな、上手く行けば挟み撃ちに出来る。…今まで何回か失敗しているが…な。」 また何度目かの(エドワードは最早数えるのを断念した)溜息をつきながら、 大佐が少尉の進言を承認した。そしてそのまま、視線をエドワードに向けた。 「…しかしまぁ、今回はこっちにも小っさいのがいる事だし。細い路地も気にせずに追跡できるだろう。 是非とも頑張ってそのコンパクトぶりを発揮してくれたまえ、鋼の!!」 「なんだとおぉお!!!?誰が豆粒かあぁあッッ!!!!!」 爽やかに微笑みながら肩を叩く大佐に、エドワードは憤怒の形相で絶叫した。 「まぁ、そんなに怒るなよ、『ハニー』。今回はお前さんが頼りだからな。」 「そうよ『ハニー』。一刻も早く書類を取り戻さないと。」 「…アンタら…本ッ気で手伝うのやめるぞ…?」 忘れかけていた猫ネタで追い討ちを掛けられ、ヘコむエドワード。 そんな兄を「兄さん…強く生きてネ」と結構冷たく見守る弟、アルフォンス。 …そして不安要素はたっぷりそのままで。 いよいよ、エルリック兄弟を巻き込んだ「捕物帖」は幕を開けるのであった。 |