「…数時間見ない間に、随分と男前になったじゃないか…。」

  「…ヒトの事云えるツラかよ…。」



  捜索開始から4時間余りが経過した頃。
  成果のないまま合流した一同は、第三者的には笑えるほどにボロボロになっていた。
  …唯一人、ホークアイ中尉だけは何故か爽やかなまでに無傷ではあったが。

  結局、両チーム共に『ハニー』に遭遇したにも関わらず、
  今回もモノの見事に逃げ果せられてしまったワケで。
  結果、見るも無残なボロボロ姿。

  …しつこいようだが、中尉は何故か爽やかなまでに無傷である。




  「くあぁあ〜ッ!!何なんだよあの猫!!ムッカツク〜〜!!!」

  戻ってきた東方司令部の一室で。
  エドワードはくしゃくしゃと髪を掻き毟りながら喚き散らした。
  それを横目で眺めつつ、咥えたタバコに火をつけたハボック少尉が
  ゆっくりと紫煙を吐いてエドワードに同意する。

  「まったく、あの狡さは尋常じゃないな。一体何時になったら捕まえられるんだか…」

  「おやおや、今日もやっぱり戦果なし、ですか。」

  少尉の後に続いたセリフに、エドワードはビクッ、と身体を跳ねさせた。
  自分の頭上から聞こえた声に、恐る恐る顔を上げるとそこには。
  質の宜しくない笑みを浮かべた痩身の男が、自分を見下ろしていた。

  「・・・・・何故君がここに居るのかね。」

  不機嫌MAXな口調で。
  大佐は、いつの間にかエドワードの真後ろに立っていた『キャットウォーク』に問いかけた。
  それに対して彼は、相変らずおどけたような仕種でそれに答える。

  「何故って、これから本日2度目の尋問を受けに取調室へ向かうところです…よっと」

  「うわぁああ!?」

  『キャットウォーク』の意識が大佐に逸れたその隙に、慌ててアルフォンスの陰に
  逃げ込もうとしていたエドワードだったのだが。
  男は素早く拘束具で繋がれた両腕を伸ばし、すっぽりと抱き込むカタチで
  エドワードを引き寄せた。

  「やあ、そんなに慌てて逃げる事はないじゃないか、ハニー?」

  「は、ハニーって云うな!!放せ!は〜な〜せ〜!!!」

  男はじたばたと暴れるエドワードをしっかり抱え込んだまま、大佐に向かって話を続けた。

  「この分じゃぁ、機密書類が帰ってくるのは当分先ですねぇ。
  …もしかしたら一生戻ってこないかもしれないなぁ?
  ねぇハニー、君もそう思わないかい?」

  云いながら、エドワードの顎に手をかけて自分の方へと顔を上向かせる。

  「う、ぐッ…」

  無理矢理後方に向かされたエドワードが、くぐもった声を上げた。

  「…彼を放したまえ。」

  怒気の篭もった口調で大佐が云う。
  機密書類云々よりも、どうやら男がエドワードを捕らえている事に
  怒りが向いているらしい。
  エドワードに一番近い場所にいたアルフォンスがすっと身を沈め、
  すぐに飛びかかれる体勢をとった。
  大佐の傍に控えていた中尉や少尉も、腰にある銃へと手を伸ばす。
  しかし、この物々しい雰囲気にも全く怯む様子はなく。
  男は相変らず薄い笑みを浮かべたまま、エドワードの顔を覗き込んだ。

  「いやぁ、やっぱりハニーにそっくりだ。…この子、気に入っちゃったなぁ。
  僕にいただけませんかね、この子?大事にしますから。」

  まるで猫の子供をくださいとでも云うような口調で、そんな事を云って退ける。
  エドワードは文句の一つも云ってやりたい心境ではあったが、
  顔をムリな方向で固定されているため、上手く声が出なかった。

  「お前…大将を人質にして逃げるつもりか…?」

  少尉が、いつもより幾分低い声で問いかけると。
  『キャットウォーク』は小さく肩を竦めながら、
  エドワードの顎から手を外した。

  「この子を人質になんかしなくたって、僕はいつでもここから
  逃げられるんですけどね。現にこうして、結構自由に散歩してる
  ワケですし。ホラ、ここって見た目より杜撰じゃないですか?警備体制とか!」

  その言葉に、少尉が苦い表情を作る。
  確かに男の云う通りで、漸く捕らえた強盗殺人犯は両手を手錠に繋がれたまま、
  我が物顔で司令部内をうろついている。
  これでは「捕らえた」のではなく「ここに居てもらっている」ようなものだ。

  そして楽しそうに笑いながら警備の不備を指摘した男は、
  未だ腕の中で暴れているエドワードをギュ、と強く抱え直した。

  「あまり時間がかかるから、そろそろ飽きてきちゃったなぁ。
  本当はこのまま、大人しく捕まっているつもりだったんだけど、
  そろそろ新しいルールを作りましょうか?」

  「新しいルール…だと?」

  険しく『キャットウォーク』を睨みつけたまま、大佐が問えば。
  男はうんうんと頷きながら、一同を見回して。

  「タイムリミットを設けましょうか。
  …そうだなぁ、あと2日あげましょう。
  それまでに『ハニー』を捕まえられれば、貴方達の勝ち。
  僕は大人しく服役しましょう。死刑宣告でも何でも受けますよ。
  けど、『ハニー』が捕まらなかった場合は僕の勝ち。ここに居る
  貴方達を全員殺して、この子を攫って逃げる事にします。」

  「「なっ・・・・・・・!?」」

  同時に声を上げた少尉とアルフォンスの後ろで。
  ドン!と、硬い物がぶつかる音がした。
  その音に二人が振り返れば、自らの拳を机に叩きつけた大佐の姿。
  ・・・・・机の、拳の当たった部分に大きな亀裂が入っていたりする。
  二人は顔を見合わせ、同時に同じ事を思った。



  …きっと皆殺し云々よりも、大将/兄さんを攫うって件で
  怒りまくってるんだろうなぁこの人…。



  そんな二人の思いなど知った事ではないらしく。
  大佐は不敵な表情で、改めて『キャットウォーク』を睨みつけた。

  「面白い。そのゲーム、乗ろうじゃないか。まぁ結果は当然
  我々の勝ちだがな。」

  「それはどうですかねぇ?ま、精々楽しませてください。」

  挑戦を受け取ったところで、『キャットウォーク』を取り逃がした憲兵達が
  部屋へと駆け込んできた。

  「…おっと、漸くお迎えが来ましたね。
  それでは皆さん、2日後に。」

  ニッコリと毒の篭った笑みを向け、男はエドワードを解放した。 

  「こ、こんな所に居たのか貴様!!申し訳ありません大佐、
  今すぐ尋問室へ連れて行きますので!!」

  慌てふためく部下に、大佐はもういい、と手を振って見せる。

  「これから2日間、こいつは牢から出さなくていい。
  見張りは今の倍に増やせ。」

  「は…?は、はい!!」

  今一理解できていない様子ではあったが、憲兵達は両脇から
  男を挟み込む体制をとって出て行った。


 


  「・・・・・ぐわ〜〜!!ムカツク!!あの猫といい、あの野郎といい、
  オレをバカにしてんのか〜〜〜!!!」

  「…兄さん、今更そんな事云っても負け犬の遠吠えだよ…?」

  『キャットウォーク』の姿も見えなくなって漸く叫んだエドワードに、
  アルフォンスが冷静にツッコむ。
  大佐よりも苦手な人がいたんだね、兄さん…と呟いた声は、
  まだ悪態をついているエドワードの耳には届かなかった。

 

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