ざりざりと、土を踏む音と。 幽かな衣擦れの音だけが 辺りに響いて。 歩きながら話そうなどと云っておきながら 一向に話を始める様子の無い龍斗の背中へ、 天戒は視線を向けた。 数ヶ月前に、自ら此処へ連れてきたこの青年。 戦闘に於いては並ならぬ力を発揮する彼は、 日常に於いては明るく気さくな性質であって。 あっという間に、この村に溶け込んでしまった。 様々な理由で哀しみや苦しみを抱えている村人達や、 …此処の核たる鬼道衆の者でさえも。 少しずつではあるが確実に、その笑顔を取り戻して。 この者は、ひょっとすると。 今まで心の隅に追いやっていた「俺自身」を。 …何れ、引きずり出してしまうのではないか? 思い至って、慌てて首を振る。 自分はこの村の人々を。 いつか、陽の当たる場所へと還す為に。 そして自らも。 …その為に、徳川への復讐を。 この手で、成し遂げるまでは。 「鬼道衆の頭目」として彼らを導くには、 「九角天戒」としての個人的感情など不要なのだから。 今は、まだ。 「御屋形様」 気が付けば、龍斗は歩みを止めていた。 振り返り、此方の様子を窺っているようだった。 「…あぁ、すまん。少し考え事を…」 その言葉に、何故か小さな溜息をひとつ落として。 そうですか、と呟くと、再び背を向けて歩き出そうとした。 「…緋勇、話があるのではなかったか?」 その背中に云えば。 酷く緩慢な動きで、首だけを此方に向けた。 「それはそうなんですけど…」 逆光で、龍斗の表情は窺い知れないが。 続いて同じように緩慢な動きで、体ごと天戒へと向き直る。 その気配は、ほんの少しの緊張を纏っていて。 「少し、迷っています。俺なんかがこんな事を云っても良い ものかどうか」 「…?」 「えぇと…御屋形様の気に障る事、云うかもです、俺。」 「…遠慮は要らぬ。云ってみろ。」 軽く目を伏せる気配が伝わる。 そして龍斗は大きく息を吸い込んで、意を決したように 顔を上げた。 「俺、御屋形様の友達になりたいんです!」 ・・・・・・。 ・・・・・・はい? 天戒は、今の自分は当に豆鉄砲を喰らった鳩のような顔 をしているに違いないと、真っ白になっていく思考の隅で 妙に冷静に思った。 |