…今のは俺の聞き違いだろうか。
    目の前のこの男は、先程俺に向かって
    「友達になりたい」
   …と云ったように聞こえた。のだが。

   龍斗の発言に、辺りの空気が2〜3度程
   低下した気がした。
   そのまま押し黙ってしまった天戒に、
   発言した本人は気まずそうに下を向いた。

    「…や、やっぱりダメですか…友達は…」

    …あ、聞き間違いではなかったのだな。

    「…って、友達?な、何故に友達…?」

   半ば呆然と聞き返す天戒に、龍斗はパッと顔を上げ、
   グッと握り締めた左拳を、己の顔の位置まで持ち上げた。

    「何なら『お兄ちゃん』でも構わないんですけども!!」

   …益々以って解らん。
   そもそも『友達』よりも『お兄ちゃん』の方が格段におかしいと思うが。
   …緋勇が俺の『お兄ちゃん』…???

   以前より時々訳の分からない言動をする男ではあったが、しかし。
   今日のコレは一段と理解し難い言葉であって。

    「…緋勇。何故その様な考えに思い至ったのか、
    順を追って説明してくれぬか…?」

   その場に崩れ落ちたい衝動を必死で耐え、
   天戒はやっとの思いで声を絞り出した。
   すると龍斗は、またも小さく溜息をついて。

   「俺、御屋形様に初めて会った時に思ったんです。
   随分寂しそうな瞳をしてるなぁって。」
   「…寂し、そう?俺の…瞳が?」

   天戒はその言葉に瞠目した。

   寂しそう?
   初めて出会ったあの時に。
   己の生死を握られた男を前にして。
   緋勇はそんな事を考えていたのか?
   …俺が、寂しそう…だったと?

   「…だから、気に障ること云うかもって。云ったじゃ
   ないですか。」

   只、驚いて言葉がなかっただけだったのだが、
   龍斗にはそれが気に障っての沈黙と取れたらしい。

   「いや…緋勇、俺は」
   「でも、云うって決めましたからね。失礼なのは重々
   承知していますけど。でも最後まで聞いてほしい。
   その上で俺の云った事が間違いで、それが許せないと
   お思いなら、この場で切り捨てていただいても構いませんから。」

   有無を云わせぬ勢いで。
   龍斗は此処に至るまでの経緯を話し始めた。



 

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